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食育講座
早寝早起き朝ごはん
◇はじめに
  近年、若年層の生活習慣病予備軍やキレやすい若者が社会問題になっております。また全人口の一割をはるかに超える1,620万人が糖尿病もしくはその予備軍といわれ、今話題のメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)でも、男性の40歳以上で約2人に1人、女性の約5人に1人がその可能性が疑われる、と考えられています。国民医療費も年々大きく膨らみ、国民の負担も限界になりつつあり、日本も大きな社会不安を抱え転換点を迎えております。
  このような状況下、文部科学省では、平成18年度から「子どもの生活リズム向上プロジェクト」を立ち上げ、また平成18年4月以降「早寝早起き朝ごはん」全国協議会が、PTAをはじめとして幅広い団体・行政等の参加を得て国民運動を展開しています。
 なぜ「早寝早起き朝ご飯」が必要か、一緒に考察しましょう。

◇自然のリズム
  太古の昔から、生物は地球の日の出と日没による昼夜のリズムに影響を受けてきました。どんな動物でも必ず睡眠をとります。太陽が東から昇ると目覚め、太陽が西に沈み暗くなると眠りにつくのは、何百万年にもわたり進化してきた我々人間も例外ではありませんでした。
  「古代エジプトの都ルクソールの人々は、太陽が昇るナイル川の東岸は生者の住むところ、太陽が沈む西岸は死者の逝くところ」と信じました。東岸には人々が生活し、カルナックやルクソールの巨大神殿を建造しましたが、西岸の砂漠はあの世がある場所で、死者を葬る多くの墓地(王家の谷もここにあります)が造られました。
  日本でも天照大神が洞穴の中に隠れてしまい、暗黒の夜が続いた「天の岩戸の神話」に見られるように、太陽のありがたさは人々の間に信仰として受け継がれてきました。朝日に向かって拍手(かしわで)を打ったり、神社で祭られているご神体の鏡は太陽を象徴しているなど、現在でも日常生活のあちらこちらに太陽信仰は残っております。太陽の出ている明るい時間は起きて働き、太陽が沈んだあとの暗い時間は休息する、という生活リズムの大切さが昔からこのような形で伝えられてきたのです。
  早寝早起きは、このような自然のリズムに沿った人間として大事な、昔から守るべき生活習慣でした。

◇現代人の生活リズム
  電気の発明、それに続く交通手段や産業の発展により、20世紀に入り夜遅くまで起きて働くという行動パターンが、先進国で浸透するようになりました。更に近年のテレビやコンピューターの普及により、世界的に人間の社会生活における、昼と夜の差が少なくなってきました。
  日本においても、大人のみならず子どもまでも夜遅くまで起きている生活パターンが、急速に広がっています。夜遅くまで起きていれば、朝早く起きるのは当然苦痛になり、出来るだけ時間ギリギリまで寝ていたいという悪循環に陥り、自然のリズムから大きく外れることになってきました。

◇雑食と脳の発達
  人間が猿から進化した大きな要因は、食べ物の違いと言われています。カリフォルニア大学の人類学教授のK.ミルトン博士の研究に、共通の祖先から分かれた同じくらいの大きさのマウントホエザルとアカクモザルの比較があります。ホエザルは木の葉を主として食べ、果実のある季節のみ果実も食べます。一方クモザルは主に果実を食べ、果実がなくなる季節も森の中で木の実を探して食べるのです。果実や木の実は、繊維が多くエネルギーになりづらい木の葉と違い、糖やデンプンや脂肪が含まれる為、エネルギーが得られやすく、又その他の栄養素も多いので、長い間木の葉を主に食べてきたホエザルに比べ、クモザルは2倍の重さの脳を持つようになったのです。
  人間も、クモザルと同じようなプロセスで進化していったと考えられています。
つまり人間が人間に進化していったのは、約500万年もの長い間、種々雑多な食べ物を食べつづけ、いろいろな栄養素を摂り入れた結果、脳や体が発達し「万物の霊長」になっていったということなのです。

◇食事の回数
  自然の木の実や果実をとって食べていた頃は、食事は食料を獲得したときに限られていたので、何日も食べられない日が続くこともありました。農耕が始まってからは、食料の備蓄も出来るようになり、年を経るに従い食事の回数もだんだん増え、今は一日に朝・昼・晩の3回が定着してきました。
  なぜ、一日に2回の食事ではなく3回になったのでしょうか。

  太陽による自然のリズムの影響を何百万年にわたり受けてきた人類は、脳の発達に伴い、食料の確保にも、他の動物との違いを発揮し、著しい進歩を遂げました。農耕・牧畜・養殖は、狩猟・採集を中心とした食料調達手段を大改革したのです。
  近年の研究でわかったことですが、人間の脳は体重のわずか2%しかないのに、使用するエネルギーは全体の20%を使う大食漢なのです。また脳は夜寝ている間も起きているときと同じくらいのエネルギーを使うのです。(夜間の消費量は約240キロカロリーで、ブドウ糖換算で約60グラム、1日ではその倍の約120グラム)
  体はタンパク質や脂肪もエネルギーにすることが出来ますが、脳はブドウ糖(グルコース)だけをエネルギーにします。しかも夜の間に相当の量を消費しますので、前日の夕食で補給してもすぐになくなってしまい、肝臓や筋肉に蓄えているグリコーゲンをエネルギーに変えるだけではとても足りません。朝食をとってエネルギーを補給しないと、脳がしっかり機能しないのです。このようなことから朝食が定着し、その後の産業革命以降、特に労働強化のためのエネルギー補給源として、労働と労働の間の昼食もきちんと摂るようになってきました。仕事が終わってからの夕食は、時間的な余裕があり家族皆がそろって、その日一日の出来事を話し合いながら食事するという、楽しく美味しく食べる文化的社会的側面が芽生えてきました。今日では、世界中3回の食事が基本となっています。

◇朝食を廻る現状
  平成18年版食育白書の図表からは、朝食を食べない人の割合は年々増加の傾向にあることが分かります。平成16年時点での朝食欠食率は、全体で10.5%、男性12.6%、女性8.7%ですが、20歳代の一人世帯の男性は65.5%と極めて高いことが、特徴的です。「食欲がない、時間がない」のが朝食欠食のおもな理由です。
  また平成17年度の調査では、 自分一人で朝食を取る小学生は20.1%、中学生は41.6%と孤食が多くなっており、その上食事の内容も人によって違う個食も多く、特に成長期の子どもが、好き嫌いによりきちんとした内容の朝食を取っていない偏食も問題で、中には菓子パンやスナック類のみの朝食もあり、栄養バランスが大きく崩れています。
  食料があふれている現在の日本で、食育の無知からくる「現代型栄養失調」が特に子どもたちを蝕んでいます。

◇朝食欠食の弊害
  朝食を摂らないと、血糖が低下し始め、体温も下がり、体の抵抗力は弱まって脳の働きが悪くなってきます。エネルギーを補給するために、肝臓からグリコーゲンを取り出し血糖(グルコース)を、また筋肉のタンパク質を分解し、その中のアミノ酸を糖に変え脳に供給します。そのときに血糖を高めて、脳の活動を維持する色々なホルモンが分泌されます。イライラや攻撃性・興奮・ストレスに関与するアドレナリン、ノルアドレナリンや副腎皮質ホルモンの分泌が、精神的に微妙な影響を与えるのです。
  最新の調査で、心身の活力及び活性化と密接に関係するA10神経細胞核が、脳幹の中脳にあることがわかりました。この核の神経繊維が、知(前頭葉・側頭葉)、情(大脳基底核・辺縁系)、意(視床下部)の働きを神経伝達物質のドーパミンを介しコントロールしているのですが、このA10細胞核に作用して、知・情・意・を活性化させるのがベーターエンドルフィンで、朝食を摂ることによって分泌が促進され、また食欲増進ホルモンのオレキシンも分泌されることが分かっています。
  茨城県警と筑波大学が共同で調査した報告書によれば、傷害や覚醒剤使用で補導された非行少年530人の内、55%が朝食を欠食していました。孤食や偏食の比率も、一般少年と比べ著しく高く、朝食を摂らない非行少年は、脳の糖代謝が前頭葉の部分で低下し、偏食による低血糖やビタミン、ミネラルの欠乏と相まって抑制が効かなくなり、その結果非行に暴走するということを示しています。

◇早寝早起き朝ごはん
  国立教育政策研究所の「平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査」によると、毎日朝食をとる子どもほど、ペーパーテストの得点が高い傾向がはっきり証明されました。
また朝食欠食は、朝食以外の1回の食事量が多くなり過食につながることから、子どもから大人まで肥満や生活習慣病の発症率を高めることも確認されています。
  しっかり朝食を摂るためには、欠食理由の「時間がないから、食欲がないから」をまず解消しなくてはなりません。自然のリズムに合わせて、前日の夜は早くベッドに入り早寝をすれば、翌朝は必ず早く目が覚めます。そうすれば起きてからの時間的余裕も生まれ、家族との挨拶と会話も出来、自然とお腹も空いて朝食が美味しくいただけます。これを続けて習慣にすることが大事で、特に短期間に成長する幼児の頃から始め、一生を通じて良い習慣を身につけさせることが親の務めです。幼児の時に一度身についた良い習慣は「三つ子の魂百まで」と言うように長く実行できるものなのです。
  良質のタンパク質を決めるアミノ酸スコアが65と高いお米を主食に、野菜類、豆類、魚介類、海藻類などを組み合わせた食事を朝からバランスよく摂ることが全ての出発点である事を、親の我々はもう一度『食育』を通じて確認したいものです。


参考文献『子どもは和食で育てなさい』 鈴木雅子 著 株式会社カンゼン 発行
      『科学が証明する朝食のすすめ』 香川靖男 著 女子栄養大学出版部 発行
      『平成18年版食育白書』 内閣府編集 社団法人時事画報社 発行

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